Inheritance tax returns

相続対策・相続税申告

 相続に関する問題は、事前と事後で分けられます。まず一つは、相続が発生する前に、それによって生じであろう問題にあらかじめ対処することによって、問題の発生を未然に防ぐことです。もう一つは、相続が実際に起こった際に、どのように問題を最小化し、解決するかということです。

事前の相続対策としては、以下の事がございます。

1. 相続税について

まず、現在の財産からすると、相続税がどれくらいかかるのか、そして、その相続税を払うことができるのかどうかを知る必要があります。お金はあまりないし、借地だし、昔は親族と会社をやっていたけれど、引退して株だけ持っているような状況で、税金はほとんどかからないだろうと思われている場合でも、借地権や自社株式の評価額が、思ったよりも高くなる場合がよくあります。

仮に相続財産となる現預金で払ええないとしたら、どうするのか。以下のことを検討していきます。

  • 相続人の手持ちの現預金で支払うことは可能なのか
  • 相続財産を売却、現金化して払うことは可能なのか
  • 売却できない財産の場合は、物納をするのか
  • 納付期限の延長をして、分割で支払うのか
  • そもそも相続税をもっと少なくする方法はないのか

仮に払える場合であったとしても、もっと相続税を少なくする方法はないのかを検討していきます。また、暦年贈与や相続時精算課税、事業承継税制などを有効に使うことはできないかということも検討していきます。

2. 相続人について

事前に相続の対策をなさろうとする方は、相続財産がある程度あり、かつ相続人が複数いらっしゃるだと思います。今、現在相続人同士の関係が良好であったとしても、財産を分けるその時もそれが維持されているかどうか、誰にもわかりません。そして、一度こじれた親族関係をもう一度、元の通りに戻すことがなかなか難しいのも事実です。ですから、相続の際に、相続人同士がいがみ合うことないように事前調整をとっておくことが最も望ましいことなのです。この調整をとることができるのは、相続財産を残すご本人のみです。相続人の事情とご本人の生活や財産の状況等を考慮しながら、遺言書を作成して、その内容の趣旨等を相続人の方に教えてあげて下さい。

事後の相続問題としては、以下の事があります。

1. 相続の具体的な手続きについて

葬儀や法要を行いつつ、市役所に行ったり、銀行に行ったりとしなくてもならないので、なかなか大変です。特に相続の放棄をする場合や税金の申告・納税には期限がありますので、注意が必要です。

  • 死亡届の提出
  • 通夜、葬儀
  • 初七日法要、香典返し、四十九日法要
  • 相続の放棄又は限定承認(被相続人の死亡より3か月以内)
  • 所得税等の準確定申告書(被相続人の死亡より4か月以内)
  • 相続財産・債務の確定
  • 遺産分割協議書の作成
  • 相続税の申告と納付(被相続人の死亡より10か月以内)
  • 相続不動産の登記申請・預金等の名義変更

2. 財産の分割

相続人が複数いる場合は、ここが一番大きな問題となります。相続が上手く行く、行かないもここにかかっていると言っても良いと思います。

遺言がある場合の遺産分割は、その遺言に従って行います。遺言の中身が、相続人の期待と大きく異ならない場合は、比較的簡単にすみます。しかし、遺言がある場合であっても、相続人の同意があれば、その遺言と異なる遺産分割をすることは可能です。 

次に遺言がない場合ですが、相続人全員の話し合いで遺産分割を行うことになります。相続人の同意さえあれば、非常に極端な遺産分割であっても構いません。

遺産の分割は、通常は相続人同士の話し合いで決着がつくのですが、ときに話がまとまらないことがあります。そのような場合は、家庭裁判所に申し立てて、遺産分割の審判や調停を行うことになります。調停しても話合いがまとまらないというときには、調停は打ち切られて、審判手続きに移行されます。更に審判に不服がある場合には、審判書受領後2週間以内に高等裁判所に不服申立てをすることになります。ここまで行きますと、相続人間の関係はかなり険悪なものになっていいますし、時間もかかるし、裁判のための費用もかかります。

3. 相続税の算定及び納付

① 各人の課税価格の算定

相続又は遺贈により取得した財産の価額みなし相続又は遺贈により取得した財産の価額(保険金等)非課税財産の価額(お墓等)相続時精算課税適用財産の価額債務及び葬式費用の額被相続人から贈与財産の価額各人の課税価格

② 各人の課税価格の合計

Aの課税価格Bの課税価格Cの課税価格Dの課税価格課税価格の合計額

③ 課税遺産の総額

課税価格の合計額遺産に係る基礎控除(3,000万円600万円×法定相続人の数)課税遺産総額

④ 法定相続分に応ずる各取得金額

課税遺産総額×法定相続人Aの法定相続割合=Aの取得金額

課税遺産総額×法定相続人Bの法定相続割合=Bの取得金額

課税遺産総額×法定相続人Cの法定相続割合=Cの取得金額

課税遺産総額×法定相続人Dの法定相続割合=Dの取得金額

⑤ 各取得金額を基にした算出税額

Aの取得金額×税率=算出税額a

Bの取得金額×税率=算出税額b

Cの取得金額×税率=算出税額c

Dの取得金額×税率=算出税額d

⑥ 相続税額の総額

算出税額a+算出税額b+算出税額c+算出税額d=相続税の総額

⑦ 相続税額の算出

相続税の総額×Aの課税価格/課税価格の合計額=Aの税額

相続税の総額×Bの課税価格/課税価格の合計額=Bの税額

相続税の総額×Cの課税価格/課税価格の合計額=Cの税額

相続税の総額×Dの課税価格/課税価格の合計額=Dの税額

⑧ 各種の税額控除

該当する場合には、各人の相続税額から、贈与税額控除や未成年者控除等の税額控除を行います。

⑨ 申告・納付

相続税の申告書の提出は、原則として、相続の日の翌日から10か月以内に提出し、納付しなければなりません。ただし、状況によっては延納(最高20年)や物納も可能です。

4. 相続税調査

税務調査は、納税者が提出した申告書が税法に従って正しく処理されているかどうかを、税務署員が実地に臨場して行う確認行為です。 税務調査の最大の関心事は、課税対象となる「事実の認定」、すなわち課税事実がどうなのかにあります。そのため、課税事実の存否、正否ないし適否を客観的に裏付け、かつ、立証する「税務証拠資料」を収集し、かつ、整備することが税務調査上のトラブルを回避する最良の手段となります。

特に、税務調査で最も問題となるのは、現預金です。家族名義の預金も調査されます。結局、名義が家族になっているが、実際はこの預金は相続財産なのではないか、申告漏れではないかということが疑われているのです。申告漏れの35%が現預金であり、最も大きいのです。

ところで、税務署はどうして相続が発生したことを知っているのでしょうか。それは、死亡届を受けた市町村長が、その翌月末までに、その市町村役場等の所在地の所轄税務署長に通知することになっており、その通知書を受理した税務署長は各死亡した者の住所地を所轄する税務署長にこれを回送することとしているからです。

相続税の調査は、一般的に相続税の申告後、半年から2年後くらいまでに行われるケースが多いようです。年間4.7万件くらいの相続税の申告件数に対して調査件数が1.4万件くらいですので、10件に3件くらいの割合で調査を受けることになります。相続財産額が3億円超である申告の全申告件数に占める割合が17%くらいですので、相続財産が3億円超の場合には、必ず税務調査があると考えておくべきです。

相続の問題は一度生じると、後々まで尾を引いてしまいますので、問題をなるべく小さいうちに解決することが望まれます。問題の発生の原因は、他の相続人やその家族であったり、相続財産の種類であったりするわけですが、どの問題も対処をきちんと行えば小さくすることはできます。そのためには、ある程度の時間や労力やお金が必要な場合も出てきてしまいますが、ほっておいたらますます問題を大きくし、より解決が難しくなる事態に陥りますので、気付いた時には行動に移すようにいたしましょう。